ヨーロッパの薬用酒〜薬草系リキュールの世界〜

ハーブ

中国では、生薬を漬け込んだお酒が漢方の内服薬として古くから用いられてきました。この伝統は日本にも伝わり、現在では薬用養命酒や陶陶酒のような気軽に飲める薬用酒も市販されています。

同様に、西洋にも薬用酒の伝統があります。

薬草や樹脂をワインに漬け込んだ薬用酒はすでに古代エジプトで用いられていましたが、古代ギリシアの医師ヒポクラテスがワインにハーブを漬け込んで薬として使用していたように、薬用酒は古代ギリシアやローマでも知られていました。

さらに中世に入ると、錬金術師や修道士たちがハーブと蒸留酒を用いて薬用酒をつくるようになります。

このような歴史を背景にヨーロッパには、現在もたくさんの種類のハーブのお酒があり、これらは薬草系リキュールと呼ばれています。この記事では主要な薬草系リキュール10種を紹介していきます。

シャルトリューズ

シャルトリューズは、フランスにあるカルトジオ会のシャルトリューズ修道院に伝わる薬草酒で、当初は薬用として用いられていました。

ブランデーをベースに、アンゼリカ、シナモン、ナツメグなど130種類のハーブを使用し、樽で熟成されてつくられています。数人の修道士のみがレシピを知っているという秘伝の酒です。

複雑な味わいで、薬草系リキュールの女王と称えられ、カクテルにも使われます。

ベネディクティン

シャルトリューズはカルトジオ会の修道院に伝わる薬草酒でしたが、こちらはフランス北部ノルマンディー地方のベネディクト会修道院で長寿の秘酒としてつくられたのが始まりです。

蒸留酒に、ジュニパーベリーやアンゼリカ、シナモンなど27種のハーブを漬け込んでつくられます。

ベネディクティンのボトルのラベルには「DOM」という文字が書かれていますが、これはラテン語の「Deo Optimo Maximo」の略で「至善至高の神へ」という意味です。修道院らしいですね。

味わいは甘口で、製菓にも使われます。

イエーガーマイスター

よくドイツ版の養命酒と紹介されるイエーガーマイスターは、サフラン、シナモン、ショウガ、アニスなど56種類のハーブを使用してつくられます。

イエーガーマイスターとは狩人の守護聖人を意味し、牡鹿の角に精霊を見た人物がのちに聖職者になったという物語に由来しています。

深い赤い色をしたお酒で、そのままストレートで飲むのがポピュラーですが、カクテルにして飲まれることもあります。

ウンダーベルク

ウンダーベルクは、ドイツで1864年にフーベルト・ウンダーベルクによってつくりだされた薬草酒で、世界43カ国から集めた40種類以上のハーブを使用しています。

ほかのリキュールと違い、20mlの小瓶で売られているのが珍しいです。

カンパリ

真っ赤な液色が目を引くカンパリは、1860年、イタリアのミラノでガスパーレ・カンパリによって開発されました。

イタリアではおもに食前酒として親しまれていて、さまざまな種類のハーブを使用した独特のほろ苦い味わいが印象的です。

ペルノ

ペルノは、フランスで伝統的に食前酒として親しまれているアニスリキュールです。アニスシードをはじめ15種類のハーブが使用されています。

水を入れると、黄緑色の液体がミルキーな黄色に変化します。

ベルモット

ベルモットは、白ワインにニガヨモギをはじめとするさまざまな種類のハーブやスパイスを加えてつくられるフレーバードワインです。

おもにフランスで生産されるドライ・ベルモットと、イタリアで生産されるスイート・ベルモットがあります。

ドイツ語でニガヨモギを意味する「Wermut」が名前の由来です。

食前酒として飲まれ、また「マティーニ」や「マンハッタン」などといったカクテルの材料としても使われます。

ウニクム

ウニクムはハンガリーの国民的な健康酒で、たくさんのハーブやスパイスが使われています。食前・食後酒としておもにストレートで飲まれます。

ウニクムは、1790年にブダペストで、皇帝ヨーゼフ2世の重臣であったツヴァック家の祖先が主君の健康を願ってつくった薬用酒です。

ウニクムとは「特殊な」「一風変わった」という意味のドイツ語で、皇帝が初めてこの酒を飲んだときに言った言葉 “Das ist ein Unicum!” に由来します。

ウーゾ

ウーゾはギリシアとキプロスで生産されるリキュールで、強いアニスの香りが特徴的です。

ぶどうやレーズンが原料の高アルコール度数の蒸留酒とアニスを使用してつくられ、アニス以外のハーブやスパイスが加えられることもあります。

ウーゾは食前酒として飲まれます。液色は無色透明ですが、水を加えると白濁します。

ドランブイ

ドランブイは、スコットランドのステュアート王家に伝わる秘伝の酒でしたが、チャールズ・エドワード・ステュアートの護衛を務めたジョン・マッキノンに褒美としてその製法が伝授されました。

ベースは数十種類のスコッチ・ウイスキーをブレンドしたもので、おもにハイランドのモルト・ウイスキーが使用されています。

ドランブイは、これにヒースから集めた蜂蜜やハーブ、スパイスを配合してつくられます。

ストレートや水割りで飲まれ、「ラスティ・ネイル」などのカクテルも有名です。

ウイスキーの風味豊かな、スコットランドらしい個性的な薬草酒です。

終わりに

ヨーロッパの薬草系リキュール、いかがでしたでしょうか。

ヨーロッパは長い歴史を持つ個性豊かな薬草系リキュールの宝庫です。昨今、ワインやウイスキーに詳しい方は数多いですが、薬草系リキュールの知識はまだそこまで一般的ではないように思われます。

ですが、薬草系リキュールを知ることでお酒の楽しみは倍増します。ぜひあなたの生活にも薬草系リキュールを取り入れてみてください。もちろん成人限定で、飲み過ぎには注意してくださいね。

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