ハーブは、料理の風味付けや薬用としてわたしたちの生活に深く根付いているものです。
人類によるハーブの利用の歴史は古く、古代にまで遡り、古代エジプトやメソポタミアですでに利用されていました。
少し遅れてギリシア人やローマ人もハーブを利用するようになります。
ギリシア神話にもさまざまなハーブが登場し、古代ギリシア人やローマ人にとってもハーブがとても身近なものであったことがうかがえます。
この記事では、ギリシア・ローマ神話にゆかりのあるハーブ10種類を紹介します。
ヤロウ

古来より薬草として珍重されてきたハーブ、ヤロウは学名をAchillea millefoliumといい、古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』に登場する英雄アキレウスにちなんで名付けられました。
彼の槍は敵を殺す力と傷を癒やす力の両方を兼ね備えていました。
ヤロウは彼が捨てた錆びた槍の山から育ち、トロイア戦争の間、アキレウスはこのハーブを使って戦士たちの傷を治したといわれています。
ガーリック

料理の風味づけに重宝されるガーリックは、わたしたちにも馴染み深いものですが、これも古くから用いられているハーブの一つです。
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』で、ヘルメス神がオデュッセウスに、魔女キルケの人を豚に変える魔法の薬を無効にするために渡した薬草モーリュは、野生のガーリックの一種だったのではないかといわれています。
ミント

お菓子や歯磨き粉のフレーバーとして馴染み深い清涼感のあるハーブ、ミントはギリシア神話のニンフ、メンテにちなんで名付けられました。
メンテは冥界の王ハデスに愛されるも、ハデスの妻ペルセフォネが嫉妬したため、草の姿に変えられたといわれています。
タラゴンとワームウッド


フランス料理によく使われるタラゴンと衣類の虫よけに使用されてきたワームウッドは、それぞれ学名をArtemisia dracunculus、Artemisia absinthiumといい、ギリシア神話の月と狩猟の女神アルテミスに由来します。
アルテミスはタラゴンを、テッサリアのペリオン山に住む賢者、ケンタウロス族のケイロンに捧げ、ワームウッドを、出産する女性の世話をする際に使用したといわれています。
フェンネル

フェンネルもさまざまな薬効を持つハーブとして古代から珍重されてきましたが、古代にはとりわけ目にいいと信じられていました。
ギリシア神話では、女神アフロディテが、愛人であった美青年アドニスがイノシシに襲われて死ぬと、彼の葬儀をフェンネルで飾るよう命じています。
また、神々から火を盗み、人間に与えたプロメテウスは、火をフェンネルの茎の中に隠したといわれています。
マジョラム

マジョラムにはスイート・マジョラムとワイルド・マジョラム(オレガノ)の2種類があります。
マジョラムは女神アフロディテが創り出したハーブで、オリンポス山の斜面にある彼女の庭園に生えているとされています。
また、息子のアエネアスがトロイア戦争で怪我を負ったときにこのハーブで手当したともいわれています。
パセリ

料理用ハーブとしてポピュラーなパセリには、葉の縮れたものと、葉が縮れていないイタリアンパセリがあります。
パセリは、昼寝をさせるために乳母が地面に寝かせた途端へびに噛み殺された幼児、アルケモラスの流した血から生えてきたといわれています。
イノシシに襲われて死んだアドニスの血から生えたアネモネ、円盤があたって死んだヒュアキントスの血から生えたヒヤシンスとよく似たお話です。
タンジー

ギリシア神話の最高神ゼウスは、あるとき美少年ガニュメデスに心奪われ、彼を神々の宴で酌をさせるためにオリンポス山へ連れていきました。
ゼウスは、ガニュメデスを不死にするためにタンジーの搾り汁を与えたといわれています。
月桂樹

煮込み料理によく使われるハーブ、月桂樹は葉の部分が利用されます。
ギリシア神話をベースとした、古代ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』では、月桂樹は、ニンフのダフネがアポロン神の強引な求愛を逃れるために変身した姿であると語られています。
アポロン神がなぜダフネに恋い焦がれるようになってしまったかというと、それはウェヌス女神の息子クピドを怒らせてしまったことが原因です。
アポロン神の侮辱に対しクピドは、彼が持つ恋を去らせる矢でダフネを射て、さらに恋を掻き立てる矢をアポロン神に放ちました。
こうして嫌がるダフネにアポロン神が無理やり迫るというひどい状況になりました。
アポロン神から逃れられないことを悟った彼女は父である河神ペネイオスに助けを求め、彼女の美しい姿を何か別のものに変えてくれるよう懇願します。
すると彼女の腹部は樹皮で覆われ、髪は葉に、腕は枝に、足は根に、頭は梢に変わりました。
それでもあきらめきれないアポロン神は、月桂樹が彼の木として彼の髪、竪琴、矢筒を飾り、さらにローマの凱旋将軍の頭を飾り、アウグストゥスの宮殿の両脇に立つことになると宣言したと語られています。
追記:こうして月桂樹は勝利と名誉のシンボルとなりました。
のちに月桂樹の葉の冠は軍人だけでなく優れた詩人にも与えられるようになります。
イタリアやイギリスでこの習慣が引き継がれ、優れた詩人に桂冠詩人の称号が与えられました。
代表的な桂冠詩人はペトラルカやワーズワースです。