
乳香(オリバナム/フランキンセンス)は、カンラン科ボスウェリア属の樹木からとれる樹脂で、古くから香や香水、薬の原料として珍重されてきました。
インドや中国ではアーユルヴェーダや中医学といった伝統医学において昔から使用されています。
もともと日本ではそんなにメジャーな香料ではありませんでしたが、精油がとれるので、アロマテラピーに親しんでいる方の中には利用したことのある方も多いのではないかと思います。
そんな乳香ですが、古代においては、たいへん貴重で高価、かつ神聖な香料でした。
この記事では古代における乳香の利用の歴史と、乳香をふんだんに使った香水をつくっている高級香水ブランド、アムアージュを紹介していきます。
古代における乳香の利用の歴史
古代エジプト・メソポタミア
乳香の利用の歴史は古く、古代エジプトの時代にまで遡ります。
乳香は、古代エジプトではミルラ(没薬)やキフィと並んでよく用いられた香料で、太陽神ラーに捧げる薫香として朝に焚かれていました。(ちなみに昼には没薬、夜にはさまざまな種類のハーブやスパイスをミックスしたキフィが焚かれていました)
新王国時代(紀元前1500-1000年頃)の『死者の書』には、「地上に落ちた神の汗」である乳香を牛の乳とともに焚き、心身を清めたことが記されています。
同様にメソポタミアにおいても紀元前2500年頃には、乳香が神への捧げ物として祭壇で焚かれていたという記録が残っています。
古代ギリシア・ローマ
ギリシア人の間でも乳香は知られており、ヘロドトスやテオフラストス、ストラボンなどが乳香について記述しています。
古代ローマの博物学者プリニウスによると、マケドニアのアレクサンドロス大王は幼い頃、乳香を大量に火に焚べて浪費していたところ、家庭教師のレオニダスに咎められ、そのような行いは自身が乳香を産する土地を支配できるようになるまで慎むよう諭されたといわれています。
のちにアレクサンドロスは成長して王になると、東方遠征を行って乳香を産する土地を手に入れ、レオニダスに大量の乳香を送ったということです。
また薬用としての利用もされており、ケルススの『医学論』には乳香のさまざまな薬効が挙げられています。
聖書
キリスト教会でも乳香は用いられ、とくに正教会では現在も礼拝の際に乳香が焚かれています。
乳香は聖書にも登場し、礼拝の際の薫香および傷の治療薬として用いられています。
旧約聖書には、シバの女王がソロモン王に、黄金や宝石、白檀とともに大量の香料を贈ったというエピソードがありますが(「列王記」上10、「歴代誌」下9)、シバの国が乳香の産地であったことから、この香料は乳香であったと考えられています。
新約聖書でも、東方の三博士がキリスト生誕の際に、没薬や黄金とともに乳香を捧げたことが記されています。
家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として捧げた。
「マタイによる福音書」2.11 新共同訳
黄金は王、乳香は神、没薬は救世主を表すと考えられていますので、聖書でもやはり乳香は神聖なものであったことが分かります。
オマーンの高級香水ブランド、アムアージュ
乳香は、エジプト、リビアといった北アフリカ、ソマリア、エチオピアなどの東アフリカ、オマーン、イエメンといったアラビア半島南部、インドが産地で、なかでもオマーン産が高品質で有名です。
最高品質の乳香を産出するドファール地方の乳香の群生地は、かつて乳香の交易で栄えた都市や港の遺跡とともに「乳香の土地」として世界文化遺産に登録されています。
オマーンには、国王の命令で創設されたアムアージュ(Amouage)という高級香水ブランドがあり、乳香をふんだんに使った香水をつくっています。
最近日本にも上陸し、個人輸入しなくても買えるようになりました。
わたしも欲しいのですが、なんせアラブの王様がお金に糸目をつけずに最高の材料、調香師を使ってつくらせた、国賓への贈答品にも使われる高級香水なのでなかなか高額で、庶民にはおいそれとは手が出せません。
ただお試し用のディスカバリーセットは一万円前後なので興味のある方は試してみると良いと思います。
それでも香水は高価だという方は、お香や精油を使用したり、樹脂を焚いてみるのもいいでしょう。
これらは二、三千円もあれば手に入れることができますし、いろいろな香料が混ざっている香水とはちがって、乳香単体の香りが楽しめます。
この機会にあなたも古代の神聖な香りを試してみませんか。