バラの歴史
西洋的なイメージの強いバラですが、バラの原産地はチベット周辺および中国雲南省からミャンマーにかけての地域と考えられています。
バラが記録に登場するのは紀元前3000年頃で、非常に古い歴史を持ちます。
東洋のバラはフェニキア人によってエジプト経由でギリシアにもたらされました。
プトレマイオス朝エジプトの女王クレオパトラがバラを好んだことはよく知られていますが、なんといってもこのうえなくバラを愛したのはローマ人で、彼らは嗜好品として大量のバラを消費しました。
入浴後にバラの香油を塗り、宴会の場にはバラの花が散りばめられ、葡萄酒にもバラの花びらが浮かべられました。
なかでも皇帝ネロのバラ好きは有名で、バラ風呂、バラの香油、天井からバラの花びらや香油を振り撒く仕掛け、バラの香りの葡萄酒、バラのお菓子などバラ三昧の宴を催しました。
これほどの人気を誇ったバラも中世に入ると、異教を象徴する罪深い花としていったん退けられるようになります。
一方、アラブ世界では愛好され続け、新しく開発された蒸留技術によるローズウォーターやローズ精油の生産が始まり、好んで使用されるようになりました。
その後、ヨーロッパでも次第にバラの人気が復活し、教会のステンドグラスのモチーフに使われたりするようになります。
ルネサンス期には、画家ボッティチェリが代表作『ヴィーナスの誕生』や『春』において、異教の女神とともにバラの花を描いています。
ナポレオン・ボナパルトの皇后ジョセフィーヌもバラの愛好家で、マルメゾン城に世界中から取り寄せたバラを植栽したり、画家ルドゥーテに『バラ図譜』を描かせたりしています。
1810年には、東インド会社によって中国のティーローズがイギリスに伝わりました。
ティーローズは紅茶の香りを持つ四季咲きのバラで、このティーローズとヨーロッパの在来種を交配してハイブリッド・ティーローズ(HT)が誕生します。
最初のハイブリッド・ティーローズはピンク色のバラで、「ラ・フランス」と名付けられました。
「ラ・フランス」以前からあるバラをオールドローズ、「ラ・フランス」以後に作出されたバラをモダンローズと呼びます。
その後もバラの品種改良は続き、それまでになかった黄色や青色のバラを作り出すべく研究が続けられました。
その結果、黄色のバラは実現したものの、青色のバラといわれるものは紫や藤色に近い色なのが現状です。
そのほかにも、虫や病気への耐性を持つ品種の作出など、バラの品種改良は今でも盛んに行われています。
バラの香り
バラの香りは品種によって違いますが、とくに香料の原料になるオールドローズ(ローザ・ダマセナ種やローザ・センティフォリア種)とわたしたちが普段目にするモダンローズとで香りが異なります。
香料バラの香りは濃厚で甘く、華やかで重さのある香りで、モダンローズの香りは甘さの中にも爽やかさのある香りです。
資生堂製品研究所によると、バラの香りはおおまかに以下の6つのタイプに分類できるそうです。
- ダマスク・クラシック
わたしたちが一般的にバラの香りとしてイメージする香り。
ローザ・センティフォリア種の強い甘さのある香りや、ローザ・ガリカ種の華やかな香りが属します。 - ダマスク・モダン
ダマスク・クラシックの香りを受け継ぐ、より情熱的で洗練された香り。 - ティー
ハイブリッド・ティーローズの香り。
グリーンバイオレットが基調の上品で優雅な香り。モダンローズの多くが属します。 - フルーティー
ダマスク・クラシックとティーの香りの特徴が混在。
ピーチ、アプリコット、アップルなど果物の香りがします。 - ブルー
ブルーローズの香り。
ダマスク・モダンとティーの香りの特徴が混在する独特の香りです。 - スパイシー
クローブ(丁字)の香りを持ちます。
現在、バラの香りの成分は350種以上解明されているといわれていますが、現代の分析技術をもってしてもいまだ解明できていない成分がたくさんあり、その全容は謎に包まれています。