夜空に輝く星々の中で、特に古代から多くの人々に親しまれてきたのが「12星座(黄道12星座)」です。
現代では占星術や性格診断でよく知られるこれらの星座ですが、その背景には、壮大な神話の世界が広がっています。
今回は、12星座の起源と成立、そしてそれぞれの星座とギリシア神話との関係についてご紹介します。
12星座の起源と成立
12星座は「黄道12星座」とも呼ばれます。
「黄道」とは、地球から見た太陽が一年かけて通過する道筋のことです。
その黄道上に位置する12の星座を人類は古くから観測し、時間の流れや季節の変化を読み取ってきました。
黄道12星座の原型は、古代メソポタミア文明(バビロニア)にさかのぼります。
彼らは黄道を12等分し、各区画に代表的な星座を当てはめました。
これが後にギリシアへと伝わり、ギリシア神話と結びついて現在の形となったのです。
その後、アリストテレスやプトレマイオスなどの哲学者・天文学者たちは、これらの星座を体系化し、占星術としての役割を与えました。
こうして星座は単なる天文観測の対象から、人間の運命や性格を象徴するものへと変化していきました。
ギリシア神話と12星座のつながり
ここからは、それぞれの星座がギリシア神話の中でどのような神々や物語と関わっているのかを見ていきましょう。
1. 牡羊座(アリエス)
金色の羊「クリソマロス」がモデルです。
これは、ボイオティアの王子フリクソスと妹ヘレを救った神聖な羊で、その毛皮は「金毛羊皮」として後の英雄イアソンの冒険(アルゴナウタイ)に登場します。
2. 牡牛座(タウロス)
主神ゼウスが、美しい王女エウロペに恋し、白い雄牛に姿を変えて彼女を誘拐したという伝説に由来します。
牡牛座はそのゼウスが変身した姿です。
3. 双子座(ジェミニ)
カストルとポルックスという双子の兄弟がモデルです。
神話では、神ゼウスの子である不死身のポルックスと、人間の子であるカストルの絆が美しく語られ、死後に二人は星座として天に上げられました。
4. 蟹座(キャンサー)
ヘラクレスがヒュドラと戦っているとき、女神ヘラは巨大な蟹を送り込みました。
この蟹はヘラクレスに踏み潰されたものの、忠誠心を称えられて星座になったとされます。
5. 獅子座(レオ)
ヘラクレスの12の功業の一つ「ネメアの獅子」退治に由来します。
矢も剣も通じない強靭な獅子をヘラクレスが素手で倒し、その姿が天に上げられました。
6. 乙女座(ヴァルゴ)
豊穣の女神デメテルの娘ペルセポネや、正義の女神アストライアと関連づけられています。
特にアストライアは、地上に正義が失われると天に去ったとされ、その姿が乙女座とされました。
7. 天秤座(リブラ)
乙女座とともに正義の象徴です。
アストライアが持っていた天秤が星座になったとされます。
ギリシア神話においては唯一、道具そのものが星座になっている珍しい例です。
8. 蠍座(スコーピオ)
狩人オリオンを刺し殺した蠍がモデルです。
オリオンが自らの力を誇ったため、女神アルテミスや大地の女神ガイアが蠍を送り込み、命を奪ったと伝えられています。
9. 射手座(サジタリウス)
上半身が人間、下半身が馬の「ケンタウロス族」がモデルです。
中でも賢者ケイロンが射手座の起源とされ、彼は医術や星の知識に長けた教師でした。
10. 山羊座(カプリコーン)
半身が山羊、半身が魚の姿を持つパーン神がモデルです。
怪物テュポーンから逃れるため、水に飛び込んだ姿が星座になりました。
11. 水瓶座(アクエリアス)
神々に仕える美少年ガニュメデスがモデルです。
ゼウスに見初められ、天に連れて行かれて酒注ぎ役となり、その姿が水瓶座とされました。
12. 魚座(ピスケス)
愛と美の女神アフロディーテとその子エロスが、怪物から逃れるため魚に変身し、縄で互いを結んで泳いだという神話に基づいています。
星座に宿る、神話の記憶
このように、12星座にはそれぞれギリシア神話の豊かな物語が息づいています。
単なる星の並びではなく、古代人が自然現象や宇宙に意味を見出し、神々や英雄の物語を重ね合わせた文化的遺産なのです。
現代では、星占いとして日常の一部に溶け込んでいる12星座。
しかしその背後には、人間と宇宙、神話と科学が交差する壮大なドラマがあることを忘れないでいたいものです。
12星座は、古代メソポタミアからギリシア神話を経て、現代に受け継がれてきた文化と知恵の結晶です。
星座を眺めるとき、そこに描かれた神話の登場人物たちの姿を思い浮かべれば、夜空の美しさが一層深まることでしょう。

