アラブの人々は昔から香りが好きです。
十世紀末、哲学者であり医師でもあったイブン・シーナは水蒸気蒸留による精油の精製法を確立しました。
また、有名な説話集『千夜一夜物語』にも竜涎香や麝香などさまざまな香料が頻繁に登場します。
今でもアラブの人々は香水を好み、お香をよく焚きます。香りが暮らしの中に根付いているのです。
この記事では、アラブでお香としてよく用いられている乳香・ウード・バフールと、アラブ式のお香の焚き方について解説していきます。
乳香
乳香(オリバナム/フランキンセンス)はカンラン科ボスウェリア属の樹木からとれる樹脂で、樹皮に切れ込みを入れて出てくる透明な樹脂が、しだいにミルクのような乳白色に変化することから乳香と呼ばれています。
昔から香や香水、薬の原料として珍重されてきた香料で、古代では大変貴重で神聖、かつ高価なものでした。聖書にも登場する由緒ある香料です。
産地は北アフリカ、東アフリカ、アラビア半島南部、インドで、オマーン産が高品質で知られています。なかでもドファール地方のものが最高品質です。
これを香炉(マブカラと呼ばれる)に小型の炭をのせたものを使って焚きます。
爽やかな樹脂の香りがします。
ウード
ウードは日本では沈香と呼ばれ、伝統的な香木の一つです。
東南アジアに自生するジンチョウゲ科アクイラリア属の樹木に、風雨、病気、害虫などによって木が傷つけられたときに分泌される樹脂が沈着して形成されます。
長い時間と偶然の産物なので人工的につくりだすことは難しく、希少で高価な香料です。
水に入れると沈むことから沈香と名付けられました。
そのままではほとんど香らず、熱を加えることで香りを発するという性質を持ちます。
日本では線香の原料として使われることが多いですが、アラブでは小片を小型の炭の上にのせて焚きます。
重厚で奥深い、落ち着いた香りです。わたしの家族には不評ですが、ハマる人にはハマる香りです。わたしも大好きです。アラブではとても人気があります。
バフール
バフールはアラブの伝統的なお香で、香木やフレグランスオイルを使ってつくられます。
形状は、ウッドチップ状のものや日本の練香のようなタイプのものなどがあります。
練香は粉末状の香原料を蜂蜜などと混ぜ合わせた丸薬状のお香で、平安時代に貴族たちが使用していたものです。今日ではおもに茶席で用いられています。
アブドゥル・サマド・アル・クラシやアル・ハラメイン、スイスアラビアンなどアラブの香水メーカーでは、よく香水や香油とともにこのバフールが販売されています。バフールもやはり小型の炭の上にのせて焚きます。
製品によって香りはさまざまですが、一般にフルーツやお花の甘く華やかな香りや、ムスクや香木、樹脂の重厚な香りがします。
これはウードや乳香も同様なのですが、日本のお香と比べるととても煙が多く(白い煙がもくもくと出ます)、香りも強く、残り香も長く残るので、その点は注意が必要です。

スイスアラビアンのバフール。

同じくスイスアラビアンのバフール。こちらはチップ状のもの。

お香用の炭です。
アラブのお香の焚き方

アラブのお香を試してみたい方のために、アラブ式のお香の焚き方を紹介します。
- トングを使ってお香用の炭をしっかりとつかみ、バーナーやライター、ガスコンロで炭を熱する。
- 熱した炭を香炉の上に置く。
- トングを使って炭の上にお香をのせる。
- 煙とともに立ち昇る香りを楽しむ。
火の扱いにはくれぐれも気をつけて、アラブのお香の豊かな香りを楽しみましょう。